なぜ金鉱株が金のリターンに及ばないのか(パート2) - 22 October 2011

先週に続き、昨今金鉱株のリターンが金地金のリターンに劣っている現状とその背景が、ブリオンボールトリサーチ主任のエィドリアン・アッシュによって解説されています。

多くの人々は、金鉱株は買い時だと言うことでしょう。しかし、ここで金地金に相当する十分なリターンを得るにはまだ時間が必要でしょう。それは、そのリターンが金価格の上昇に劣ることが、平常化しているためです。そして、金鉱株はその例外ではありません。(その現状はパート1を参照ください。)それでは、その理由は何なのでしょうか。

ファンドマネージャーやアナリストは、次のように説明しています。まず、金鉱株への投資需要は、金への需要の高まりにより減少しているとファイナンシャルタイムズはレポートしています。そのため、「金ETFを考案した人々が、実際には損失を被っているのです。」と、世界一の金産出量を誇るBarrick社の設立者であり会長のPeter Munk氏は述べています。そして、この会社はETF考案をサポートしていたのです。

金の裏付けがあるETFは、2003年から2005年に販売が開始されました。この目的は、2001年までの20年にわたり、金価格が75%下落したために、減少した投資家による金の需要を高めるというものでした。特に、米国投資信託会社においては、現物資産を購入することができないためでもありました。それがゆえに、現物金地金を上場投資信託の形に開発したのでした。そして、金ETFとして世界最大規模のニューヨーク証券取引所に上場されているSPDRゴ-ルド・シェア(GLD)の残高は、現時点で718億米国ドル相当となっています。金鉱株においては、北アメリカの4大金鉱会社は、現在その価値が1355億ドルと倍増しています。GLDの取引が開始された直後の6年前においては、金鉱会社業界全体の評価額は、1000億米国ドルであったことからも、金鉱株が蚊帳の外に置かれていたとは言えないでしょう。

しかし、金鉱会社は、会社経営上の問題から痛手を負ったのでした。それは、2001年から遡り10年間、世界の金鉱業界は、3200トン(ABN Amro金ヘッジレポートより)という規模の採掘する金をその時点の価格でフォワード取引したのでした。この、全世界の採掘量15ヶ月分の売却は、長期間にわたる金の弱気市場においては、金鉱株投資家を守るために行われたのでした。

しかし、強気市場においては、もちろん株主はこれを最良の判断とはみなしませんでした。それは、すでに売却した金を、強気市場で失った機会を取り戻すために、さらに高い価格で購入し、そのための資金を得るために増資をするなどといった経営手法でした。そのために、強気市場においては、2001年から2006年にAmex金鉱株指数(HUI)が金価格の1%の上げに対し、7%のリターンを生み出したように、金鉱業界がフォワード取引をいしていた頃の方が、投資家にとってはリターンは高かったのです。

それ以降の期間においては先の取引はほぼゼロとなったことがこのヘッジレポートで見ることができ、その間には先の金鉱会社は、金価格1%の上げに対し0.3%のみ上げています。ある最高経理責任者は、「この間には、金価格に対し100%のリターンを上げる可能性があったにもかかわらず」40億米国ドルを損失したとも述べています。

さらに、金鉱株保有者は、このような状況下で配当をも得ることができなかったのです。これは、金鉱会社として世界第1位のBarrickと第2位のNewmontにおいてすらも、1980年半ばよりの両社合わせた1株あたりの配当総額が7ドルであることからも分ることでしょう。年間投資リターンについては、固定された費用や強気市場で1000ドを超える運営益を出しているにもかかわらず、両社においては1%を上回る利回りのレベルにとどまっています。そのため、運用実績の良いエクイティファンド会社のほうが、実際に高いリターンを出しています。

リターンの総額:年間平均(月間データ)

期間 Newmont Barrick US Global fund Van Eck fund
2001年以前の弱気市場 -1.6 +19.1 +34.4 -5.1 -5.1
2001年以降の強気市場

+19.6

+16.9 +17.1 +41.9 +51.1
2001年~2007年 +18.9 +19.8 +20.2 +47.3 +59.1
2007年から現在 +21.2 +11.2 +10.9 +31.4 +35.4

出典元:ブルームバーグとヤフーのデータを基にブリオンボールトが集計

先の表から、金融危機以前の強気市場においては、平均年間リターンでは、金が金鉱会社最大手を上回っていること、そして、金融危機が始まった2007年以降には、金鉱会社とエクイティファンドのリターンが大きく下げたことが分ります。

英国のファンド会社であるブラックロックGold & Generalは、「金は安全資産という傾向があります。そして、金融市場に高いボラティリティが見られる際や政治情勢が不安定である場合、現物資産であるという側面が価値を高めるのです。」と金の利点を説明しています。そして、過去4年間の金融危機時には、それが証明されたのです。しかし、金鉱株を購入するという利点は証明されたでしょうか。

ブラックロックGold & Generalファンドは、堅実な金鉱株を取り扱うファンドです。しかし、米国の金鉱株を扱う会社と同様に、ここにおける金鉱株への投資は、現物金地金への投資とは異なるのです。そして、昨今投資パフォーマンスが落ちていることからも、産出量や金の需要が金の強気市場を支えているのではなく、金融機関や国家の破綻リスクへの憂慮が金価格を押し上げているということが十分に推察できることでしょう。

金を産出もしくは金鉱を開拓している会社の株を購入するのは、金価格が上昇している際は自然なものと考えることでしょう。しかし金融危機時には、資本は利益を求めるのではなく、安全な避難先へと向かうのです。また、金鉱株が、会社経営上のリスク、株式市場におけるリスク、地政学リスクといった信用リスクを伴うことも、問題となるのです。金へのエクスポージャーがあることは確かですが、過去5年間に、金の上場投資信託(ETF)が金投資の資本の流れを奪ったことも疑いのない事実です。著名ファンドマネージャーのTocqueville Asset ManagementのJohn Hathaway氏のように、特に機関投資家は、金ETFを通じて金価格の上昇の恩恵を受けることができるようになったのです。

金の代替投資商品は、決して金ではないのです。ノーザンロック、リーマンブラザーズ、ギリシャ財政難といった金融危機は、通貨の価値を下げ、信用収縮させ、投資や成長を妨げ、デフレを引き起こすものなのです。これを防ぐために、中央銀行がどれだけ金融の量的緩和を行い、資金を市場に流入したとしても。そのために、リーマンショック後の金融危機時にそうであったように、世界がおかれている現状の中では、安全資産の金現物への需要は、金鉱株投資を上回ることとなるのです。

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Adrian Ash, 22 Oct '11
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エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。