なまずと債務地震 - 7 January 2012

貪欲になるべきではない。そのようなことをしていると、なまずが大判小判の金貨を吐き出させるかもしれない。

ブリオンボールトリサーチ主任のエィドリアン・アッシュが日本の古来言い伝えと絡め、昨今の経済状況を解説しています。

日本において、古くは、鹿島神宮の祭神が要石で大なまずを押さえつけるのを忘れたために、本州の下に横たわる大なまずが体を揺することで地震を引き起こすと信じられていました。

鹿島の神を崇める事は必要であることでしょう。それは、地殻の変動により引き起こされる地震による死や破壊は、神がその義務を果たしていなかったためというこだからです。例えば1855年11月には、鹿島の祭神が出雲へ出かけたから、7000人以上が死亡した安政の大地震が発生したという説もあります。しかし、この大地震は、決して全てが悪いことではなかったと言い伝えでは説かれています。

有名な浮世絵では、労働者の一人は「貪欲になるな!」と同僚に叫んでいます。そして、金持ちが宝舟を水に浮かべています。

「この金を貯蓄したら、後悔することでしょう。そして、地震がきます。」

「この金は消費されるべきです。それによりこの金は市場に回り巡るのです。」

鹿島神宮もまた、2011年3月の大地震で被災しました。しかし、古来の伝説を信じる日本の人々は、このような状況下でも、光を見出すのです。19世紀のなまず絵の数枚では、なまずが捕らえられ、地震を犯した罪を咎められ、腹切りをしているものもあります。しかし、その中には、労働者や商店主の英雄と称えられているものもあります。それは、その地震により金持ちが被災した建物を修理、立て直すために、金を使わなければならない状況となり、それにより労働者は潤ったというがためです。

フランスの19世紀の経済学者フレデリック・バスチアの「壊れた窓の寓話(Parable of the Broken Window)」にも同様な説が見受けられます。それは、物を壊すことは社会にとっては良いことであるというものです。それは、これにより修理を行うガラス工に仕事が与えられ、その収入は社会に循環するためというものです。そのため、地震は、大工、左官に仕事を与え、富を循環させる効果があるあるというものです。

江戸に住む人々にとっては、1855年の安政の大地震は、世直しもしくは世界の富の分配を調整する意味があったのです。当時の浮世絵には、なまずが金持ちから大判小判の金貨を搾り出し、一般庶民が、喜びから踊りながら、酒や食べ物に消費している姿が描かれています。

2011年を振り返って

台風の季節の洪水や干ばつ時の大火事のように、地震や津波は、日本では、気と呼ばれているとどまる事のない世界を巡っているエネルギーが一時的な不均衡を起こした際に、それを正すために発生すると理解されています。時折訪れる想像を超えるスケールの自然災害は、自然と人間社会の関係を健全に保つものであるとも。また、孔子が説くように、一般の人々もまた経済においても同様なことが必要であるのだと信じています。気が自然界で留まることなく流れているように、経済においては、通貨に代表される富もまた、留まることなく流動すべきであると。このようなことから、富を必要以上に蓄える事を自然が咎めているのだと信じられていたのです。

このような古い見解を、現在の経済に当てはめる人がいるのでしょうか。恐らく、中央銀行や大学においては、このような意見は聞かれることはないでしょう。しかし、強欲であることは、不況の元凶と昔ながらの言い伝えで説かれていることは確かです。これは、資本主義、利益を貪欲に追求する投資銀行が、昨今非難されていることと大きく異ならないことでしょう。西洋において、貯蓄者達が、債務地震(債務危機がもたらすショック)を憂うことは過去にはなかったかもしれません。しかし、日本においては、貯蓄者が長く苦難の日々を過ごしてきたのです。

東日本大震災後に、通貨に代表される富の流動性を保つために、日本政府が金貨付き復興国債を発行したことは、皮肉であるとも考えられます。この復興国債は、1千万円を0.05%の金利で3年間保有した場合に額面1万円の金貨を受領できるというものです。この金貨は純金で重量は15.6g。現時点での評価額は67,000円。つまりは、2014年に金価格が同等レベルとして0.3%の金利となります。そのため、これは富める者からその富を搾り出すという、昔ながらの言い伝えの通りです。しかし、ここでの富める者とは、日本の実直な貯蓄者であり、この貯蓄者は日本のバブルが弾け、過去10年間以上に渡り、ゼロ金利に耐え続けてきた人々です。

10年間以上に渡るゼロ金利政策は、人々の経済感覚を麻痺させるのでしょうか。復興国債に付いてくる金貨が、人々の国債購買意欲を高めることを信じる人は少ないことでしょう。それよりも、3月の大災害後の、人々の愛国心に訴えているというのが正しい見方でしょう。しかし、国債売却のためには、金貨や財務大臣の感謝状が贈られるといったように、既に様々な試みが行われているのです。

国債売却のキャンペーンのリーフレットが、直接個々の家に配られているという情報もブリオンボールトには入ってきています。このような、戦時中とも思える悲愴感漂う試みは、2012年の国債による資金調達を憂慮せざるを得なくさせます。国際通貨基金(IMF)は、日本政府の公的債務が615兆円に達することを予測しています。また、OECDによると、2010年には、戦後初めて公的債務が税収入を上回ったことも報告されています。そして、この年の日本の公的債務は対GDP比205%となっています。そのうちの95%は、自国の投資家によって保有されているのです。昨今は、国債購入を奨励するために、野村證券などの大手金融機関が日本国債購入者に、商品券を付けるキャンペーンをも行っているのです。

孔子「富はその地域に属するものである。」と説いています。また、江戸時代初期の儒学者で軍学者でもあった山鹿素行は、「富は一人の人に属するものでなく、循環すべきものである。」とも説いています。

21世紀の初めである現代において、「ウォール街を占拠せよ」という抗議運動は、なまずで富を搾り出すべき人々は誰であるかを十分に知り得ているようです。また、テレビのニュースや経済関連ブログなども、金融システムは強欲な人々によって運営されていると推定しているようです。そして、金融危機が起こる以前には、バーナンキFRB議長は、世界経済の均衡を乱しているのは、アジアの貯蓄者であると非難していたのです。

この不況の原因を何としようとも、富を握っている人々から、どのようにしてその富を搾り出すべきなのでしょうか。トービン税は、一見その目的を果たすように見えるかもしれません。しかし、年金のファンドマネージャーがその費用を年金受給者へ課すことから、一般庶民もまたその税を支払わなければならなくなるのです。銀行の配当に上限を付けるという案も貯蓄者を傷つけることとなるのです。それは、彼らの収入はこれらの利回りに依存しているのからなのです。金利をゼロに抑える方策も、消費を減少させることとなるでしょう。量的金融緩和も、日本が経験したように、景気を立て直すためには、実行力の無いことは明らかです。

「通貨は、資産の主となるものであり、取引の手段であり、富を蓄える方法であり、安全資産でもあるのです。そのため、金融資産への過剰な需要は、生産性を破壊し雇用を崩壊させます。特に通貨が消費されず、通貨として保管された場合などです。その場合、金融資産の供給超過を行うことで、それらを回復させることを可能とします。」とバークリー大学教授Brad Delong氏は述べています。

日本においては、量的緩和で通貨を市場に大量に送り出す方策は、消費を高めることに至りませんでした。しかし、リーフレットを配ばる、もしくは商品券を付けるといったキャンペーンを行って国債を販売せざるを得ない状況を作り出しました。そして、Delong教授の提案がさらに発展し、通貨は、金融資産の主であり、取引の手段であると共に、現在はクレジットとして利用されているのです。箪笥の中で保管されているのではなく、預金として銀行に預けられているのです。そのために、大部分の富は、貯蓄者のコントロール外にあるのです。

今日、富める者とは銀行へ預金している人々のような貸し方となります。しかし、彼らの富は既に他へ貸し出されているのです。銀行に預けられた富は、銀行の貸借対照表上の負債項目となり、彼らが直接保有する資産ではなくなるのです。そして、銀行へ預けられた資産は、多くは他へ貸し出されているため、年金受給者などの銀行で貯蓄をしている多くの人々がこれを引き出そうとした場合、ローンとして貸し出されている資金が回収されなければならなくなります。

現在は、このようなことから、公的債務を積み上げたユーロ圏諸国多くの負債を抱える米国の消費者は、声高に債務帳消しを望んでいるのです。

もし現在の不況の原因を富を蓄えている人々とするのであれば、日本の古い言い伝えにあるように、伝説のなまずが、貯蓄者であるあなたの富を搾り出そうとすること、もしくは、フランスの寓話にあるように誰かが、一般庶民であるあなたの家の窓を壊しにくるのを恐れなければならないでしょう。

それは、公的債務を積み上げた諸国や、多くの負債を抱える消費者が債務帳消しを許されるのであれば、一般庶民である貯蓄者が、まさに富を吐き出させられることとなる事を恐れるべきだということなのです。

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Adrian Ash, 07 Jan '12
エィドリアン・アッシュは、ブリオンボールトのリサーチ主任として、市場分析ページ「Gold News」を編集しています。また、Forbeなどの主要金融分析サイトへ定期的に寄稿すると共に、BBCに市場専門家として定期的に出演しています。その市場分析は、英国のファイナンシャル・タイムズ、エコノミスト、米国のCNBC、Bloomberg、ドイツのDer Stern、FT Deutshland、イタリアのIl Sole 24 Ore、日本では日経新聞などの主要メディアでも頻繁に引用されています。

弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。