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コメックスの金在庫の仕組みについて

2013年のコメックス金在庫の急激な減少は何を意味するのでしょうか?

コメックスの金の在庫に関する誤った情報が昨今溢れているようです。ここで、ブリオンボールト米国市場開発責任者のミゲル・ペレスーサンタイアが解説しています。

最も注意すべきことは、今年の急激な在庫の減少が、金先物の決済に必要とする金の不足を起こす、もしくは売却者によるデフォルトの兆しかもしれないという誤った理解をすることです。

コメックスの仕組みには隠れた意図や秘密があるわけではありません。ここでは、コメックスの仕組みをできるだけシンプルに説明します。30年間製造から小売までの幅広く貴金属業界に関わったものとして、私は業界の実情を知った上でこの仕組みを解説できる立場にあると考えます。

まず最初の質問は、「金は金先物の在庫保管場所にどのように入るのか」というものです。このためには、長い過程をかけますが、答えはとてもシンプルです。これらの金は、金鉱から産出されるか、宝飾品や金地金や金貨などをリサイクルしたものということです。製造会社は、その市場の特別な規定に沿って、金地金を製造します。コメックスの場合はCMEグループによって定められた規定となります。

これらの金地金は、製造会社に保有されているものか、製造会社の顧客の保有物で、再度販売するために製造会社に製造を委託しているのです。

コモディティー市場に金地金をデリバリーする製造会社は、認められたブランドを登録していなければなりません。それは、HeraeusJohnson MattheyMitalor Technologiesといったものです。

これらの金地金が製造後、Brinks Inc、Via Mat Internation、IBI Armored Incのような、市場に認可されている配送業者によって、在庫保管場所へ配送されなければなりません。金は、HSBC、Brinks Inc.、Scotia Mocatta Depositoryといった、市場が認可した保管場所間で移動をすることがあるかもしれません。しかし、これらの保管場所間の移動は、市場で認可されている業者によって行なわれなければなりません。このようなことから、市場が認可した企業のみで取り扱われた金以外が、この市場に入ることはできまないのです。

金がこのように市場で認可された保管場所から取り出され保管された場合、CMEがその金地金の品質を保証することは無いと言えるでしょう。これは、投資家がこれらの保管場所から金地金を引き出した場合、認可された製造会社によって再度製造を委託するところから始めなければならないということを意味します。このようにして、この市場で取り扱われる金地金の品質を保証することが可能となるのです。

それでは、次に「何時、金はこのコモディティ取引所で利用できる、もしくは登録されたとみなされるのでしょう?」という質問に答えてみましょう。

市場が受け入れられる金地金が、市場によって認可されている保管場所に入った時点で、金先物の決済に利用できることとなります。そして、この地金の所有者が取引所にデリバリーした時点で、保管場所が受領書(倉荷証券)を作成します。ここで、この金地金が登録された在庫と見なされることとなります。

取引所で利用できる金地金の在庫は、登録された在庫ではない場合もあります。それは、保管場所は金地金を保管する目的であり、所有者は他の需要が発生するまで安全に保管をしているに過ぎない場合もあるためです。その需要とは、アジアなどの他の市場の投資家のために製造し販売するといったものです。この取引所で利用可能な金地金は、投資家、製造会社、ヘッジファンド、銀行、金鉱会社が所有するものかもしれません。多くの場合、これらの金地金はそれぞれの会社の顧客のために保管されており、この形態での保管は、在庫として登録され、受領書(倉荷証券) が保管場所で発行された場合よりも、柔軟であり、何時でも引き出すことができます。

取引所を運営するCMEは、その利用可能な在庫の管理を直接しておらず、その量に関心もありません。しかし、登録された金の在庫は、CMEによって取引所で利用できるグッド・デリバリーと正式に認められるものであるため、その在庫詳細が記録・管理され、金先物取引の受渡のために保管されているのです。先物取引の決済時に、差金決済を行なわずデリバリーを受けることを選択した場合、保管場所の受領書(倉荷証券)を受けとることとなります。この際、保管場所内で登録された金の在庫の量は変わりません。この金地金は継続して登録在庫として扱われ、受領書(倉荷証券)の所有者が移ることとなります。

金先物の購入者が、現物のデリバリーを希望した場合は、受領書(倉荷証券)を「破棄(break)」することとなります。しかし、この過程は時間を有します。ここで、「破棄(break)」した場合、金が取引所が認める業者で管理され続ける場合は、この金は利用可能な在庫でありつづけます。しかし、金地金が取引所が認める業者の管理外へ置かれた場合は、利用できる在庫と見なされなくなります。

それでは、「この受領書(倉荷証券)はどのようなな仕組み」かを次に説明して見ましょう。

保管場所の受領書(倉荷証券)は、小切手のようなものです。そして、保管費用は、受領書(倉荷証券)の保有者が支払います。多くの場合、保管場所発行の受領書(倉荷証券)を受けとることを選択した場合、ブローカーが受領書(倉荷証券)を保管します。また、投資家がこれを実際に保有することを選択する場合もあります。しかし、債券や証券を個人で保有することが稀なように、このようなケースは稀といえるでしょう。

もし、受領書(倉荷証券)を保有する場合、この受領書(倉荷証券)で証明されている金は、この書類を受け渡すことで、現物を受渡をされたことになっていても、引き続き正式に登録されている在庫です。そのため、別途先物取引をすることで、この受領書(倉荷証券)を取引所に受け渡すことができます。

先物取引所はどのような仕組みとなっているのでしょうか?

CMEグループは、世界で最も大規模な先物取引所です。金を含む多くのコモディティは、この取引所で取引されています。金先物の取引所は、CMEが購入する前の取引所の名前、コメックスと未だに呼ばれていますが、取引量においては、世界で最も規模の大きい取引所です。

この取引所では、先物取引が行なわれています。これらの取引は、規定の量、規定の品質の貴金属を定められた時期に受け渡すという契約です。これらの取引の証拠金を支払い、より規模の大きい取引をすることができ、この取引所の流動性は十分に高いものがあります。この大部分の流動性は、金価格動向で収益を上げることを試みる投機家によって提供されているものです。これにより、金鉱会社、精錬会社、製造会社、小売業者などの、金の業界に関わる会社が、将来の価格の先物取引を行なうことで、価格動向によるエクスポージャーをヘッジし、市場のリスクから自社を守ることができるのです。このために、金の先物市場は存在するのです。

大部分のコモディティ先物取引のポジションは、期日前に差金決済されます。しかし、だからと言って、全ての取引が投機目的ではないのです。例えば、宝飾品製造会社は、金の現物を購入する際に、金先物を売る契約をします。

これを可能な限りシンプルな例で説明をしてみましょう。宝飾店が400の金の指輪を製造するために、100オンスの金を必要としているとします。そして、この製造過程は2週間であるとします。その間、金価格動向によるリスクを持つことを望まない宝飾店は、金現物を指輪製造のために購入すると共に、金先物の契約(100オンス)をCMEで売却し、価格ヘッジを行ないます。こうして、価格動向によるリスクを防ぎ、2週間後に金の指輪が売却できる段階で、この先物契約を買い戻すというように先物市場を利用するのです。

この場合、現物の受渡はコモディティ取引所を介して行なわれることはありません。そのため、金の登録在庫が減少する場合の最も大きな要因は、金の価格が下落していることからです。そして、金が取引所に留まるよりも良い利用方法があるということも示唆しています。取引所で利用できる金の在庫と登録されている金の在庫の量は、金価格が上昇すると増加し、下げると減少するというように、価格の動向に影響を受ける傾向があります。それは、価格上昇時には、より多くの投資家が資産価値を保つために金を利用するためです。しかし、覚えておく必要があるのは、先物取引の受渡のために登録されている在庫と共に、登録はされていないもののコメックスで利用できる在庫も、同様にこの目的で使われるということです。

そのため、金価格が上昇すればするほど、より多くの人々が所有することを希望することとなります。そのため、より多くの金が投資家のために在庫として保管されることとなります。そして、過去9ヶ月間のように価格が下落時には、この金の所有者は、欧米の投資家向けではなく他に良い利用方法を見つけるのです。それは、アジアの投資家が好む1キロバーに製造しなおすことで、中国においては国際価格に20ドルのプレミアムで販売できるというようなケースです。

先のチャートでも見られるように、2013年のコメックスの金の在庫の減少は目を引くものがあります。しかし、その総量は2005年以前に比べるとはるかに多いのです。そして、在庫量を見るだけでは、それが市場が保有しているコメックスで利用可能な在庫なのが、コメックスの先物取引のために登録されている在庫なのかを判断し、市場のファンダメンタルを推測することは困難です。コメックスにおいては、数百万ドルの金の先物取引が、様々な理由で日々行なわれており、この市場の傾向はより大きな市場の一部にすぎないと考えるべきです。

全体像を見るためには、米国政府の関連団体で無料で情報を提供する米国の地質調査CPM Group、GFMS、Metal Focus Limitedなどのように、市場レポートを有料で提供している団体のデータやレポートを利用すべきでしょう。

今日、金を購入する理由は数多くあります。しかし、その際に世界市場の誤りの無い姿を理解することは、少なくとも必要であると考えます。

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資産保護のために金の購入をお考えですか。ワールドゴールドカウンシルが資本参加をしている、オンライン金取引において世界一の実績を持つブリオンボールトでは、日本のお客様に、資産の地政学的分散投資を可能とする、スイス、英国、米国、シンガポールでの金保管サービスを提供しています。

Miguel Perez-Santallaは、世界最大のオンライン金現物投資サービスを提供するブリオンボールトの米国市場開発責任者である。個人投資家の代弁者であり、メディアのコメンティターやセミナーのスピーカーとしても活躍。現職に至る前に、米国の主要コインディーラーや国際的規模の精錬会社、Heraeusで勤め、貴金属業界に30年以上従事した経験を持つ。

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