ドルの基軸通貨としての位置 - 3 June 2011
ワシントンはドルの基軸通貨としての位置を失いたいのでしょうか。BullionVault(ブリオンボールト)のリサーチ主任エィドリアン・アッシュは問いかけています。
米国の10年物トレジャリーボンド(T-Bond)利回りが、3.0%を下回りました。これは、2009年にも起こりました(その際は2.0%まで引き下がりました)が、過去50年間で最も低いレベルです。
さらに重要な点は、インフレを考慮した10年の実質利回りが、公式に発表されている消費者物価指数(CPI)を考慮しても、ゼロとなったことです。
このような低い利回りが長く続くことはないと考えることでしょう。米国政府は、貯蓄者にこの利回りを長期間押し付けることはできないでしょうと。しかし、それがゆえに、米国ドルは外貨準備の主要通貨という位置を与える、米国ドルへの世界の需要を大きく失っているのです。
それでは、ドルが基軸通貨の位置を失っているとしたら、それに代わるものは何なのでしょうか。

「金」が米国ドルに代わるものだと経済アナリストや米国の政治家、さらに投資家は答えるかもしれません。しかし、金は、世界経済が外貨準備通貨に求める一つの特徴を持ち合わせていません。
それは、制限のない保証です。
金を作り出すことはできません。また、金を破壊することもできません。これは、シアン化物で溶解しない限りは。そして、金の希少性が、金を通貨と隔てるのです。全ての通貨は、その価値を保持しなければならないものの、昨今の通貨は各国政府の金融政策によって、異なる動きをしているのです。弊社のチャートからも分るように、ドルの為替レートを考慮に入れたとしても、金価格は実際4倍となっており、過去10年間の金価格の上げは顕著です。
例えば、ドルが2000年1月より、その価値を27%失ったこと(セントルイス連邦準備銀行によるドル指標より)をなかったものとします。その場合、金価格は2011年5月に1115ドルとなります。つまりは、金のブルマーケット(強気市場)は、ドル建て市場において起こっていることなのです。
世界の中央銀行によって保有されている外貨準備の増大、世界の商品市場の流動性を供給しているもの、そして消費者物価の上昇の根源は同じなのです。

「外貨準備のための通貨という位置は、良いものであっても、そのために必要とされる要件は忘れられがちです。」と北京在住の経済学者Michael Pettisは、5月初旬に語っています。
その要件に関しては、後で述べます。現時点での共通する利益は、流動性、単純化された取引、高い貯蓄率を保つ国にとっては、その貯蓄枠は制限がありません。
流動性、これはドルが金融市場で最も頻繁に多額取引される通貨であるためです。単純化された取引、これは、人類にとって通貨は、物々交換に比べるとはるかに効率的であるのです。一つの通貨で請求し、決済することで、費用を削減できるのです。そして、アジアの巨大な貯蓄額を満たすことができる通貨は、ドル以外にはないのです。
「消費をしない国々では、欧州の国々が過去に植民地主義を利用したように、米国ドルを利用することができます。」と、米国財務省とMaryland大学のエコノミストであるKenneth Austin氏の思想を引用し、Pettis氏はJournal of World Economicsで、「資本を輸出し、外国における需要を輸入することを認可する方法として」と語っています。米国はドルの需要を満たすために、紙幣を増刷し続けなければならないのです。アジアの貯蓄を好む人々は、米国製の品物を購入し、米国人のように消費するよりも、米国ドルで貯蓄をすることを望むのです。
それでは、どのような政治的主義であろうと、多くのエコノミスがアジアは乱用しているという、第三義的な利用法は外貨準備としての米国ドルです。そのため、米国ドルには、長期的な価値保存が求められます。金は、この点においては、勝るかもしれません。インフレ調整後利息を再投資したT-Bondのリターンと比較すると、1951年からは約3倍になっているという例からもこれは証明されます。しかし、流動性と世界での取引を目的としたもの、そして取引の手段としての通貨の側面は、金は満たすことができません。
通貨は信頼を得るためには、その価値を受領時と消費時、給与日と月次の支払いの間保持しなければなりません。それができない場合は、Barry Eichengreen氏のExorbitant Privilegeによると、第二次世界大戦時のドイツ、もしくは第二次世界大戦後の英国ポンドの外国為替における低落と同様なものとなります。
1950年には、「英国ポンドを利用する地域(35の国と植民地が英国ポンドと密接なつながりがあり、第一通貨として英国ポンドを外貨準備に利用)は、世界における取引と外貨準備の半分を占めていました。」と、グラスゴー大学の国際経済歴史学の教授であるCatherine Schenk氏が述べています。そして、Schenk氏は、「第二次世界大戦直後においては、その割合はさらに高いものでした。国際通貨基金(IMF)の推定では、公式に発表されている植民地以外で保有されている英国ポンドの外貨準備高は、外貨準備として保有されている米国ドルの4倍でした。そして、1947年までには、全世界の外貨準備に占める英国ポンドの割合は、87%に至っていたのです。外貨準備高に占める米国ドルの割合が、英国ポンドを上回るには、この後10年かかりました。その間、英国ドルは30%価値を落としています。そのため、1945年に英国ポンドが機軸通貨としての位置を失ったという主張と矛盾します。」と続けています。
なぜ、英国ポンドは、基軸通貨の位置を失うこととなる通貨価値を30%落としたのでしょうか。実際には、英国政府は、政治力を失わないように、また、流動性の高い市場で借款を可能とすべく、通貨価値を落とさないようにあらゆる努力をしたのです。「英国政府および関係者が、国際基軸通貨であることの利益が、それに伴う様々な費用などを上回ると認識していることを証明する記録が残っています。」とShenk氏は述べています。ここで、Michael Pettis氏が述べた、基軸通貨としての位置付けを保持するための要件(目に見えない費用)に話を戻すこととしましょう。
「多くのアナリストが、強い米国ドルは、米国消費者の輸入費用と米国政府借り入れコストを削減すると論じることでしょう。しかし、この議論は正しいものではないと考えます。それは、米国民はすでに必要以上な消費をしているということ、そして、積み重ねられた消費費用の低下が米国民の利益となるものかも疑わざるを得ません。特にそれが米国の雇用を犠牲にしなければならないのであれば。また、借り入れコストについても、基軸通貨を持っていないスイスが実際に証明しているように、外貨準備の主要通貨でなくとも十分に借り入れコストは削減することができるのです。外貨準備の主要通貨であるために、米国ドルの借り入れコストは、実際には増加することとなっています。これは、貯蓄を好むアジア諸国によるものでもありますが。そのため、おそらくは基軸通貨としてのステイタスを保持することで、米国財務省が借り入れ費用を引き下げる術をなくすこととなることでしょう。」
米国債の利回りが3%を下回る現在、もし、基軸通貨を発行していなければ、これ以上利回りが下がることを想像することは難しいことでしょう。しかし、自国通貨以外でその債務赤字を決済する必要がないという、米国の「過度」な特権は、決して中国もしくはユーロ圏が近い将来得ることを望むものではありません。この国々は、輸出の増加を継続させることを望み、それゆえに主要通貨となることにより発生する、為替レートが上昇することを望まないのです。
「もし、将来、(米国ドルの)ステイタスが低落するためには、ワシントン(米国政府)は、世界が徐々に米国ドルから離れることを強いる必要があるでしょう。」とPettis氏は述べています。
マイナス実質金利、為替市場での価値を27%下げたこと、それに加え、連邦準備精度の政策決定者が「強いドル」と宣言しながらも、制限のない紙幣増刷を続けていることは、ある意味、この目的を達成するには良いスタートでしょう。
米国ドルによって支払いを受けている人々、外国の貯蓄者、そして金の購入を考慮している人々は、この現状を注意深く考慮すべきでしょう。
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弊社現職に至る前には、一般投資家へ金融投資アドバイスを提供するロンドンでも有数な出版会社「Fleet Street Publication」の編集者を務め、2003年から2008年までは、英国の主要経済雑誌「The Daily Reckoning]のシティ・コレスポンダントを務めていました。









