世界経済の不安を映す金高騰(後編) - 17 November 2011

スタンダードバンク東京支店長の池水雄一氏が、「池水雄一のゴールドディーリングのすべて2」で、先週に引き続き、金価格上昇の背景を解説しています。

「ゴールド高騰の背景にあるもの」

現在、上昇を続けるゴールドはまったく新しい時代に入ったといえるかもしれない。世界経済の構造的ひずみがあらゆるところに噴出しており、その影響がゴールドを直撃しているのだ。

1.悪化する欧州のソブリンリスク

ギリシャの財政破綻がほぼ確実視される今、ユーロ圏の抱える問題が投資家のユーロ売りとなって表れている。ユーロ問題に関してはここでは詳しく触れないが、過去ゴールドの現物などほとんど興味がなかったこの地域から、大きな現物需要(とくにコイン)がここ二年間生まれている。ユーロ圏の人々がユーロの将来を悲観し、ユーロを売りゴールドを買っているのだ。彼らの不安は非常に深刻なものである。

2.米国の財務状況の悪化

サブプライム危機以来米ドルの価値は確実に下がっている。ドルの価値を示すドルインデックスは下落する一方だ。資本主義経済の原動力であったアメリカ経済の消費力は実は借金と資産価値の上昇に頼った自転車操業的なものであったことがこれで白日のもとにさらされ、そのゆるやかな死をまさにマーケットが先読みしているのかもしれない。この米国の消費のおかげで日本、中国、韓国、インドと言った国々が大きな恩恵を受け、それが好景気の原動力であったことは言うまでもないのだが。アメリカの財政赤字は毎年増え続け、もうすぐそのGDPに迫る勢いである。ドルの価値の低下は、ドル資産からの資金の流出を意味する。その資金の行き着く先は現状ではゴールドがその受け皿になっている。まさに質への逃避を考えたとき、もはやゴールド以外にその価値に安心できるものがないのである。

3.世界の資金流動性

現在世界各国の政府は、国内経済の景気腰折れを防ぐために、国内市場にふんだんに資金を供給し、金利を大きく下げて企業体の業容拡大(設備投資や新規雇用など)、家計の消費拡大を促す政策を取っているが、残念ながら企業も家計も資金を積極的に使う体制にはなく、逆になるべくお金を使わない方向でいる。そ のために市場には資金があふれ、それがゴールドに向かっている。世界の資金流動性とゴールドの価格は見事なまでの正の相関関係を示している。FRBバーナ ンキ議長がその金融政策をどう進めていくか、世界のゴールドトレーダーの最大の関心事になっているのはこういう背景があるのだ。

(表:ゴールド価格と世界の資金流動性の伸び)
4.中央銀行が売り手から買い手に

80年代90年代圧倒的なゴールドの売り手であったヨーロッパの中央銀行が、ゴールを売らなくなり、代わりに中国、インド、ロシア、韓国、タイ、スリランカといった新興国がゴールドの買い手として登場、米国債に偏った外貨準備の多様化を図るためにゴールドを買い始めた。中央銀行というセクター全体としても2010年には買い手に転換している。ドルの価値下落とまさに反比例して、中央銀行のゴールド買いは増えていくであろう。

(表:中央銀行の金準備高の推移)
5.アジアの実需ゴールド買いそして日本のゴールド売り

ゴールドを買っているのはファンドと中央銀行だけではない。インド・中国・東南アジアと行った国々の宝飾需要そして個人の現物投資需要は膨らむ一方である。この実需買いが現在のマーケットの底を支えていると言っていいだろう。中国は昨年世界一のゴールド生産量(約350トン)を記録したが、その上に 250トンものゴールドを輸入し、内需は600トンを超えている。中国国民は日本人ほど政府や銀行を信頼していない。銀行に大事なお金を預けるくらいだったら、ゴールドを買う。現在経済力がついてきたアジア諸国の人々はどんどんゴールドを買っているのだ。

それとまるで対照的な国が我々の日本である。ご存知のように日本ではゴールドの売りがブームだ。街のいたるところで「金、買います。」の幟が目立つほど、個人のゴールド売りが続いている。ゴールド生産国以外で、大量のゴールドを輸出している国は世界広しと言えども、日本だけである。確かに日本の投資家は80年代、90年代のゴールドの市場低迷期に1500トンとも2000トンとも言われるくらい大量のゴールド現物を購入していた。そういった投資用のバーや、宝飾品を始めとしてさまざまに形を変えたゴールドが、相場上昇によってどんどん還流してきているのである。過去に安く買ったものの利食い売りが最大の理由であるが、もう一つ現在ゴールドを買っているアジア諸国との危機感の差もこの行動の裏にあることを忘れてはならない。日本人の大部分はゴールドを 持つ必要性をまだ感じていないのだ。

「ゴールドを持つ意味」

欧州の人々が、米国の人々が、アジアの人々がゴールドを買うのは、彼らが自国の通貨や金融商品に不安を感じているからである。欧州の人々はユーロの下落に傷つき、ヨーロッパの将来に大きな不安を抱える。米国はドルの覇権の終わりを、下がり続けるドルの価値に感じているだろう。アジアの人々には通貨が紙切れになった経験をした人も多かろう。彼らにとっては頼れるものはゴールドなのである。通貨や株式、債券のように「発行体のリスク」を持たない、紙切れになることがなく、そのもの自体に価値が認められているものはこのような不安な世の中では、まさに人々が必要としているものなのである。

日本人はこれまで痛い目にあっていない。銀行や郵便局にお金を預けておけば安心だと感じている。文句を言いながらも政府に対して従順である。これは誇るべきこと(大きな災難がなかったということ)である一面、やはり他の国人々と比べて危機感にかけているといわざるをえない。日本の国の債務は900兆円を 越えてGDPの200%以上である。これを上回るのはジンバブエだけである。それなのに金融危機に見舞われないのは、そんな従順な国民のお金が、1500 兆円もありそれが国の借金の肩代わりのような形になっているからである。しかし増え続けるこの国の借金はいつか個人金融資産を上回る(5年以内、もしくは もっと近い将来との予測もある)。そのとき日本の国債がどうなるか、想像に難くない。資産のほんの一部でもゴールドで持つのは将来の不安に対する保険として有効な手段である。圧倒的なゴールドの売り手である日本であるが、その価値を見直す時期が来ているのではないだろうか。

以上

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池水雄一, 17 Nov '11
池水雄一さんのユーザアバター

貴金属ディーリングの世界でも第一人者である池水氏は、上智大学を卒業後、住友商事、クレディ・スイス、三井物産、スタンダードバンクと貴金属ディーリングに一貫して従事し、現在はスタンダードバンク東京支店長。Oval Next Corp.サイトで市場分析ブルース(池水氏のディーラー名)レポートも掲載。