大きく変わりつつある中央銀行と金の関係 - 6 October 2010

スタンダードバンク東京支店長の池水雄一氏が、中央銀行と金の関係を歴史的な面を含み、「池水雄一のゴールドディーリングのすべて2」で解説しています。

ここ数年、金と中央銀行の関係が劇的に変化してきています。今週はそれをみてみましょう。1980年代から2009年にいたるまで中央銀行といえば鉱山会社と並ぶ金の代表的な売り手でした。1980年代にはベルリンの壁が崩れ、ソビエト連邦が崩壊。東西冷戦は終結し、第三次世界大戦への恐れはなくなりました。地政学的な緊張の緩和という背景ができあがり、世界各国の中央銀行の外貨準備運用担当者は、金を特別なものとみなすのはやめて、あまたの外貨準備資産のひとつとしてみなすようになりました。米ドルやドイツマルクやスイスフランのような通貨とまったく同じ目線で、運用効率という面だけでの価値判断になったのです。

当時、金価格はまったくぱっとしませんでした。ほぼ右肩下がり、そして金の金利、つまり運用レートであるリースレートはほとんど0.5%程度の、他の通貨の10分の1近い低金利状態にありました。つまり運用妙味に非常に乏しいものであったのです。このような状態で運用担当者の取る行動はただひとつ、つまりもっと有利なものに乗り換えるということです。つまり具体的には金を売り、米ドルや、ドイツマルク、スイスフランなどに乗り換えていったのです。この過程で中央銀行はどんどん金を売却していきました。この売りが余計に金相場の頭を抑えて、金は上がらないという悪循環を繰り返していたのです。

この流れが変わって、金が20年に及ぶ低迷相場を脱するきっかけとなったのが、1999年9月のワシントン合意(現在のCBGA-Central Bank Gold Agreement:中央銀行金合意)だと私は考えます。これはそれまで欧州各国がかってに売っていた金の量を制限した画期的な合意でした。つまり年間で
加盟中央銀行が売る金の量を合計500トンにまで制限し、また市場に貸し出す金の量も制限しました。中央銀行と並ぶもうひとつの売り手であった鉱山会社は、究極的にはこの金を借りて売ることによってヘッジをしていました。貸し出しが絞られることによって、鉱山会社も売りにくくなったのです。上のチャートを見ればわかりますが、2000年を境に金相場は急上昇に転じています。その最初のきっかけを作ったのがこの合意でした。

しかし中央銀行はその後の上昇マーケットでもCBGAの枠(年間500トン)をほぼ目いっぱい使って金の売りを続けていきました。その売り勢いがじょじょに小さくなってきたのが2007年あたりからでした。

中央銀行の金の持ちだかも2007年からほぼ横ばいで底打ち、そして2009年からは増加に転じています。特に注目すべきは、いわゆるエマージング、つまり発展途上国と呼ばれる国々です。下の表をみれば一目瞭然なのですが、中国、ロシア、そしてランキングからは外れていますがインドなど、いわゆるBRICS諸国は、その外貨準備が米ドルに大きく傾斜している状況があり、これらの国々はその外貨準備の多様化に努めています。こういった国々が、特にソブリンリスクがクローズアップされている今、通貨から金への乗り換えを目指してもなんら不自然ではありません。異常なほどの低金利、各国政府の負債の増大、そして世界中競って行っているQE (Quantitative Easing:金融の量的緩和)、と自国通貨安への誘導。目に見える状況はすべて、「通貨からの逃避=金への投資」を促していると言っても過言ではないでしょう。

これまで数十年もの間、金の売り手として存在していた中央銀行が、おそらく今年からは買い手に回ります。これは金にとってはやはり強材料です。このところ毎日のように歴史的高値を更新している金ですが、長期的視野からも強気の相場展開が予想されますね。

以上

 
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池水雄一, 06 Oct '10
池水雄一さんのユーザアバター

貴金属ディーリングの世界でも第一人者である池水氏は、上智大学を卒業後、住友商事、クレディ・スイス、三井物産、スタンダードバンクと貴金属ディーリングに一貫して従事し、現在はスタンダードバンク東京支店長。Oval Next Corp.サイトで市場分析ブルース(池水氏のディーラー名)レポートも掲載。