金と千両みかん - 22 July 2011

初心者にも分りやすい金のブログとして、ワールドゴールドカウンシル日韓地域代表豊島逸夫氏にも推薦されている、「はじめての金読本」において、古典落語「千両みかん」に絡めて、金の価格をどう見るべきかを問いかけています。

これまで金読本では、できるだけ長期の視野に立って、のんびり構えてお話してきたつもりです。けれど先日ひさしぶりにアーカイブを読み直していて、ちかごろどうも相場系の話が多いなあと気づきました。世の中まるでモグラ叩きゲームのように、先週はあちらでリスクが頭を出したかと思ったら、今週はこちらでリスクが頭をもたげるという具合ですから、仕方ないと言えなくもありませんが、これではいけません。てなわけで、今回は、のんびりいこうと思います。

古典落語に「千両みかん」という演目があります。どんな内容かといえば、ある暑い夏のこと、大店の若旦那が患い明日をも知れぬ重病になるのですが、医者の見立てによれば、なに、気の病じゃよ、という。そこでなにを思い煩っているのだろうと気になって父親があれこれ尋ねるも、芳しい答えは得られません。そこで息子と気心の知れた間柄の番頭さんに事情を話し、若旦那から患いの種をそれとなく聞き出すことになります。

ここまでは、ほとんど「崇徳院」(古典落語の演目)と同じような展開なのですが、ここから先がちと異なります。「千両みかん」の若旦那が恋い慕う相手というのが、どこそこで出会ったお嬢さんではなくて、昨年の暮れに紀州で巡り会った、ハリがあって、ツヤツヤとして、瑞々しくて、じつに香りのよい「みかん」だというのです。番頭さん、思わず吹き出しながら、後先を考えず、手に入れてきましょうと安請け合いをしてしまいます。

いまでこそ品種改良やら栽培方法が進んでいるけれど、この演目は江戸中期に出来上がったものです。夏の土用に、みかんなど手に入るものではありません。けれど、そこは落語のお噺の自由自在なところ、あちらこちら脚を棒にして探しまわってみると、ある問屋の蔵の奥に1個だけ腐らずに残っているんです。

番頭さん、汗を拭き拭き、目を輝かせて値段を聞けば、千両だという。ずいぶん吹っかけられたものです。しかし、その話を聞いた大店の旦那は、息子の命が助かるなら千両など安いものよと言う。

みかんを、ひとふさずつ、じつにおいしそうに食べる若旦那を眺めながら、番頭さんはふと考え込んでしまいます。将来、「のれんわけ」される時にいただける支度金は、はて、さて、三十両だろうか、五十両だろうか…ところがいま目の前にある「みかん」は、ひとふさが百両。番頭さん、何を勘違いしたか、欲に目がくらんだか、「お父さんとお母さんに」と若旦那が残したふたふさを、ガバと掴んですたすた逃げ出してしまうという結末。

ほんと、じつにバカバカしい噺ではあるんですが、でも、これ、笑ってばかりもいられません。この噺は価値というものの二面性をよく表していますし、実際に金市場で起きつつあることに似ているんです。

桁違いのマネーを運用しているファンドや世界の富裕層は、この落語でいうところの「「大店の旦那」です。大量増発され価値がどんどん薄まっている通貨の現状を前に、彼らは、地上在庫がプール3杯半ほどしかない金の現在の価格をいったいどう見ているでしょうか。

千両のみかんを安い物という旦那がいるんですから。これはもちろん落語なのですが、おなじ人間の考えること、実際にあってもなんら不思議じゃありません。

ちなみに、金の地上在庫がプール3杯半といっても、その6割強は宝飾品など加工品の形で保有されていますから、残り4割をすべて1キログラムの金地金に鋳直したとしても、おおよそ6,000万本*1ほどにしかならなりません。こうした金の希少性はしっかり頭に入れておきたいものです。

*1英国の 貴金属調査会社GFMS社の金需給報告書によれば、世界の金の地上在庫は2010年末で166,600tです。内訳は、宝飾品が84,200t、その他加 工品が18,700t、公的保有が29,000t、個人投資が31,100t、不明が3,600tとなっています。これをすべて1キログラムの金地金に鋳 直すと1億6,660万本、公的保有分と個人投資分のみ1キログラムの金地金に鋳直すと6,010万本ほどです。仮に宝飾品からは半分がリサイクルされた として、公的保有は売却されないとすると、宝飾品の半分42,100tと個人投資31,100の合計73,200tになり、このケースでも1キログラムの 金地金にして7,320万本にしかなりません。

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経済アナリスト、そして金市場の第一人者の豊島逸夫氏にも推薦されている金のブログ「はじめての金読本」より。