金をめぐる環境と潮流 - 7 June 2011
初心者にも分りやすい金のブログとして、ワールドゴールドカウンシル日韓地域代表豊島逸夫氏にも推薦されている、「はじめての金読本」において、昨今の金市場が世界各国の経済情勢と共に解説されています。この記事は、月一回ほどの頻度で必要に応じて更新されます。
●米国
米国では債券、投資信託、株式&出資金といったリスク資産が家計に占める割合は5割以上にのぼります。リーマンショック以降、米国は量的金融緩和を継続してきたことによってマネーが債券や株式に流れ込み、それが結果として景気と家計を下支えして来ました。
しかし、量的金融緩和第二弾の6月末終了を目前にして、米国内の主要な経済指標は軒並み悪化の兆候を示し始めています。しかも、流動性が供給される(紙幣が増刷される)なかで、インフレの兆候が見え始めている状況です。
●非農業部門雇用者数:2011年の推移
1月6.8万人、2月19.4万人、3月21.6万人、4月23.2万人、5月5.4万人
●完全失業率:2011年の推移
1月9.0%、2月8.9%、3月8.8%、4月9.0%、5月9.1%
●S&Pケース・シラー住宅価格指数2011年の推移(前年比)
1月-3.1%、2月-3.3%、3月-3.6%
●住宅着工件数2011年の推移
1月62.8万件、2月51.2万件、3月58.5万件、4月52.3万件
●卸売物価指数:2011年の推移
1月3.6%、2月5.6%、3月5.8%、4月6.8%
●消費者物価指数:2011年の推移
1月1.6%、2月2.1%、3月2.7%、4月3.2%
地方銀行の破綻も止まっていません。一昨年は140行、昨年は157行、今年に入って6月3日付であらたに1行が破綻し合計45行となってい ます。いまのところ年間90行弱の破綻ペースで推移しています。米国の地方都市にマネーという血液が行き渡り切っていないであろうことが伺えます。そんな 背景があるためでしょうか、地方債の破綻が近いという声も上がり始めているようです。
ちなみに、バーナンキFRB議長は昨年、米国が量的金融緩和を止めて引締めに転じるには、米国の経済成長率が年率2.5%以上で安定的に継続し、失業率が6%以下に抑えられる見通しが立つことが要件と発言しています。
なお、国内のドル供給量は、リーマンショック前2008年9月10日の段階で8,756億ドルだったのが、2011年6月1日現在2兆6306億ドルまで膨張しています。
(参考)FRBによるドル供給推移 http://research.stlouisfed.org/fred2/series/BASENS
●欧州
南欧各国はバブル崩壊後の財政不安が続いています。その一方、財政規律のしっかりしたドイツなどはユーロ安による恩恵から自国内経済が好調とのこと。勝ち組と負け組の二極化が進んでいるという状況です。財政不安のなかで欧州各国政府は緊縮財政に取り組んでいますが、民衆に窮乏を強いて、どこまで緊縮財政の継続できるかに注目です。
なお、欧州は原油のリビア依存が高いとのこと。今後、欧州経済をリビア・ショックがじわじわ効いているようです。
ここにきて、EUの中央銀行ECBは、域内で進行するインフレ警戒へ軸足を移行し始めていますが、南欧の国債利回りは上昇を続けており、予断を許さない状況です。容易に政策金利を上げられる状況ではない模様です。
●中国
昨年夏以降の農作物などの食品価格の上昇、不動産価格の高止まりなど、中国内政では、物価上昇の抑制が大きな課題になっている模様です。その結果、中国政府は「適度な緩和から」と、「金融引締め」へ軸足を移しており、政策金利は現在6.31%(預金金利は3.25%)。しかし、景気失速は社会不安増大につながることから、急激な上昇には至らないだろうと予想されます。
中国は政府レベルで金準備を静かに増強していますが、民間レベルでも金取引のインフラが急速整備されつつあります。海外の金ETFに投資するファンドの認可、金輸入量の大幅な増加(09年45トンから10年は250トン近くへ増加の見通し)など、話題に事欠きません。ちなみにWGC発表の最新データによれば、中国の金需要は、09年458トン(宝飾品352トン・金現物106トン)でしたが、10年は580トン(宝飾品400トン・金現物180トン)に増加。11年はさらなる増加傾向にあります。また、中国の四大商業銀行のひとつである中国工商銀行では、2010年1年間で純金積立の新規契約数が100万口座を突破。国内のインフレ懸念を背景にいちだんと盛り上がる中国の潜在需要という印象です。
ただし、中国の現政権にとって、拡大する格差問題、改善が見られない民族問題は、アキレス腱です。中東の揺らぎが津波のように周辺諸国に波及していることは、中国の現政権にとって大きなリスク要因になりつつあります。ここは要注目でしょう。
※中国の消費者物価指数:2011年の推移
1月4.9%、2月4.9%、3月5.4%、4月5.3%
●インド
インドは国内経済が復調傾向にあり、金需要もすっかり回復。09年は578トン(宝飾品442トン・金現物136トン)でしたが、10年には963トン(宝飾品746トン・金現物217トン)へと増加。11年もさらなる増加傾向にあります。ただし、新興大国の例にもれずインフレ率は高止まりしており、後追いする政策金利は5月3日に0.5%引き上げられ現在7.25%にあります。これは去年の3月以来9回目の引き上げになります。
※インドの消費者物価指数:2011年の推移
1月9.3%、2月8.8%、3月9.0%、4月--%
●中東・北アフリカ
北アフリカのチュニジアで起きた民主化を求める津波は、中東の要とされるエジプトを飲み込み、ムバラク政権が崩壊。現在、リビアが飲み込まれています。リビアはエジプトと異なり産油国であることから、原油価格が上昇、リスクが欧米の株式市場にも波及しています。
民主化要求の津波は、長期独裁政権が続く中東および北アフリカ全域、さらには東アジアにも波及しつつあります。長年に渡って溜まった民衆の怒りが大噴火しているイメージです。
ちなみに、今回の民主化要求デモは、食料品などの物価高騰、失業率の高止まりなどが直接的な引き金と見られていますが、底流にはこれまで中東と密接な関係にあった先進諸国、なかでも米国の相対的なポジション低下があるように思えます。したがって、混乱は長期に渡って続くと見られます。
●全体
欧米先進各国は「規制緩和=自由化」の果てに生じた金融・不動産バブルの崩壊過程にあり、現在はソブリン・リスク(国家の信用リスク)が底流にあります。同時に、行き過ぎた規制緩和への反省から、欧米各国には規制強化へと舵を切ろうとする動きもあります。
一方、BRICSな どの新興大国では、欧米先進諸国とは反対に、基本的には規制緩和が進むだろうと思われます。この捻れ現象がどうなっていくのかに注目。ただし、欧米の投機 マネー流入に関しては警戒モードに入っており、この点については、欧米からの資本流入に対する規制へ発展しつつあります。政策金利も徐々に上昇していま す。
また、資源を持つ南半球の国々と、資源を利用している北半球の国々との対立の構図。この捻れ現象にも長期的に注目です。
米国の大手銀行JPモルガン・チェースが、金を金融取引の担保として受け入れる方針を固めたことが話題になっています。これは、リーマンショック後の金融収縮時に、欧州の銀行がBIS(国際決済銀行)に保有金を担保として供出して、ドルあるいはユーロを借り受けるゴールドスワップという手法を採用した事例を彷彿とさせる動きです。その後、欧州議会経済通貨委員会において、金を融資の担保として受け入れることが正式に承認されたとのこと。ドル、ユーロから金へという流れが加速するかも知れません。少なくとも金はますます売られにくくなるでしょう。「金の担保市場」ともいうべきものが新たに生まれたことになるのかどうか、重要な動きとして注目です。
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経済アナリスト、そして金市場の第一人者の豊島逸夫氏にも推薦されている金のブログ「はじめての金読本」より。








