BIS ゴールドスワップをめぐる憶測 - 14 July 2010

貴金属ディーリングの世界でも第一人者である、スタンダードバンク東京支店長の池水雄一氏が、「池水雄一のゴールドディーリングのすべて2」で、先週金価格に大きく影響を与えた、BISゴールドスワップについて、解説しています。

7月第二週に発表されたBIS(The Bank of International Settlements)の年次報告書の小さな欄外補足が、ゴールドマーケットを揺り動かしました。前年には全くなかったのに、突然BISが380トンものゴールドを保有しているということになったのです。

これはBISが行ったゴールドスワップの結果でした。ゴールドスワップとは、一定の期間を決めて、ゴールドと通貨を交換することです。つまり、誰かが、BISにまずゴールドを売り、その代金をドルやユーロで受け取り、同時にたとえば6カ月後に逆の取引、つまりBISからゴールドを買い戻し、その分の通貨を払い戻すということを決める取引のことです。非常に単純にいうとゴールドを担保としてお金を借りるという取引です。そのため実際にはゴールドはマーケットに売られることはありません。足元での売りと将来の買いを同数量同時におこなうので相場にはまったく中立です。

しかし、このBISとしては異例の取引がひょっとしたら、このスワップの終了時に、資金を調達した相手がその資金を返せなかった場合、このゴールドは売りに出されるというような不安心理を煽り、このニュースが出たその日にゴールドは、1カ月ぶりに1200ドルを割り込む下落を見せました。

この取引に関しては、その詳細はまだ謎です。誰が、何のためにやったのか。実際にこの取引が行われたのが2009年12月末から今年前半にあたるということで、もっとも可能性が高いと見られたのが、欧州のどこかの中央銀行が、流動性確保のためにやったという考え方。ちょうどギリシャ問題が急浮上したときであり、欧州の銀行間取引の金利が急騰して、流動性不安が起こったときです。南欧の国々、ギリシャ(保有金112.2トン、スペイン(281.6トン)、ポルトガル(382.5トン)の各国がその容疑者として疑われ、とくに380トンほぼちょうどの数量を擁しているポルトガルでは、もしくはこの三国の合計がこうなった、とかの考えが出ていました。私もまあ、そんなところなんだろうな、と思っていましたが、IMFではないか、という意見も出て、とにかくどこかの国、もしくは国際機関がやったのだろうということに落ち着いてきました。問題は単なる金を担保にすることによる資金調達というものであるはずが、マーケットではまるで「売却」がどこかの時点で起きるかのような錯覚を起こして反応した結果、ゴールドの下落につながったということです。これは現時点においてはまったくの誤解だと言えます。

ところが興味深いことにこのスワップに関するニュースが出た翌日、BISがこのスワップについて説明のメールを出したということです。つまり、このスワップは公的機関が相手ではなく、純粋に一般の「商業銀行」が相手だったというものです。これで余計に話しがミステリアスになりました。一般の銀行が380トンものゴールドを保有しているとは考えにくく、逆に余計に、ヨーロッパのどこかの国の緊急避難的な行動で、それを秘密にしたいために、商業銀行を使ってやったという見方がされます。そもそも一般の銀行がBISと取引ができるということ自体、私は知りませんでした。

ゴールドを本格的に取引していて中央銀行ともつながりがある銀行といえば、おそらくはLBMAのマーケットメーカーとして名を連ねるGoldman Sachs / Deutsche Bank / JP Morgan / HSBC / Barclays / UBS / Societe Generale / Bank of Nova Scotiaあたりでしょうか。現在のところ、欧州(南欧)の中央銀行がこれらの銀行の一行もしくは複数行を経由してBISとゴールドスワップをおこなったというのが一番有力な見方です。問題は、このスワップが期限を迎える時。まさかとは思いますが、状況によってはその一部がそのまま市場に売却される可能性も否定しきれません。このニュースに接したときの市場の誤った反応も一概に誤ったとはいえなくなるかもしれません。こういったことがあるからまたマーケットはおもしろいのですね。BISおよびとくに欧州の中央銀行を巡る動きは注視する必要がありそうです。

金の投資をお考えですか?

池水雄一, 14 Jul '10
池水雄一さんのユーザアバター

貴金属ディーリングの世界でも第一人者である池水氏は、上智大学を卒業後、住友商事、クレディ・スイス、三井物産、スタンダードバンクと貴金属ディーリングに一貫して従事し、現在はスタンダードバンク東京支店長。Oval Next Corp.サイトで市場分析ブルース(池水氏のディーラー名)レポートも掲載。