BISゴールドスワップの真相 - 4 August 2010

スタンダードバンク東京支店長の池水雄一氏が、7月に執筆した「BISスワップをめぐる憶測」に続き、その真相について、池水雄一のゴールドディーリングのすべて2」で解説しています。

7月29日付のFinancial Timesに「BIS gold swaps mystery is unravellled.」(BISのゴールドスワップをめぐる謎が解明)というタイトルの記事が出ました。先日、このコラムで突然表面化したBISのゴールドスワップを巡る憶測を書きましたが、それに対する答えがはっきりしてきました。

そもそもこのスワップはBIS側からの行動であったとされています。すなわち、中央銀行の中の中央銀行ともよばれるBISはその巨大なドル資金の運用に当たってHSBC, Societe General, BNP Paribasほか10以上のヨーロッパの銀行とゴールドスワップを行ったということです。つまりゴールドを担保としてドルを貸し出した、ということです。BISの担当者いわく、「これは通常の商取引である」とのこと。ただギリシャ問題の待っただ中にあり、商業銀行側としても資金の調達は非常に切迫したものがあってことは想像に難くありません。そのためこのゴールドスワップは、昨年12月に始まり、今年1月にその残高が急増しています。ちょうどギリシャ問題のための流動性の確保が大きな問題になったときにぴったりと一致しています。

商業銀行はその顧客ゴールドへの投資が急激に増えており、その預かり金(ゴールド)も当然ながら急増していました。欧州の銀行はそれを利用してゴールドの現先の売り買いをBISを相手に組み、ドル資金をBISから調達、BISからの観点では、ゴールドを担保として預かり、ドルを貸し出し(運用)した、ということです。

まさにBISそして欧州の銀行のポジションが完全に一致したということのようですが、おそらくはBISの資金運用よりも、各銀行の資金調達のほうが当時は緊急の課題であり、ニーズとしてより高いものであったのではないでしょうか。これまではこういう例がなかったことを考えるとやはり今回のギリシャ危機との関連性は無視できないでしょう。そうすると欧州の各銀行へ、BISから助け舟を出したというほうがしっくりくるのではないでしょうか。

この観点から、ゴールドの信奉者は「ギリシャ危機のような重大な経済危機においても、ゴールドを持っていれば資金の調達が可能であるという点で、ゴールドのそのアセットとしての有効性を証明した。」と言っています。これは確かに言えているかもしれません。ほかのどんなものも、ゴールドほど簡単に担保にはなりえないでしょう。いざ、というときにゴールドはやはり役にたつという証明になったと思います。これはとくに、ゴールド準備高の比較的少ないアジアの中央銀行にとっては、ゴールド保有を増加させるきっかけとなりえることだと思われます。

蛇足ですが、欧州の銀行がBISとのスワップに使ったゴールドはそもそも投資家のものです。彼らの多くはいわゆる「unallocated gold」として買ったゴールドを銀行に預けており、銀行はそれを自由に使うことができるので、こういうことが可能でした。もしこれが「allocated gold」であれば、ゴールドのバーが一本一本紐付けで管理されており、銀行側は自由に運用等できないことになります。これは日本の純金積み立てなども同じです。そのゴールドの保管方法によってリスクも大きく異なります。Allocated goldの場合は銀行資産とは分離されて保管されることが多く、たとえその銀行が破綻してもゴールドは安全です。Unallocated goldの場合は銀行が破綻するとゴールドも戻ってこないと考えたほうがいいです。ただし、運用益を得ることができたり、口座の管理料が安かったりと、運用上のメリットはallocated goldよりも大きいものになる場合が多いです。

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池水雄一, 04 Aug '10
池水雄一さんのユーザアバター

貴金属ディーリングの世界でも第一人者である池水氏は、上智大学を卒業後、住友商事、クレディ・スイス、三井物産、スタンダードバンクと貴金属ディーリングに一貫して従事し、現在はスタンダードバンク東京支店長。Oval Next Corp.サイトで市場分析ブルース(池水氏のディーラー名)レポートも掲載。